個人と企業の同時成長

「エンゲージメント」とは?

より活躍できる場を求めて能力の高い人材が企業を去ることは、当事者にとっては望ましいことかもしれないが、その企業にとっては大きな損失である。そこで、近年、個人(注)の成長を支援しつつ、それを企業の成長につなげることを重視する企業が増えてきている。個人と企業が共に成長し互いに貢献し合える関係は「エンゲージメント」と呼ばれる。働くことの精神的な価値を重視し、高次の仕事観をもつ個人を確保するには「報酬」だけでは十分ではなく、個人と企業を結び付ける絆(エンゲージメント)づくりが重要なのである。

ただし、我が国は主要国と比較して絆(エンゲージメント)の高い社員の割合がかなり低い。海外の調査機関が行った世界調査によると、日本における「エンゲージメントの高い社員」の割合は米国の3分の1以下となっており、先進諸国で比べても最低レベルである。日本の企業は世界的に見て、個人と企業の成長を一体的に捉える意識や取り組みが十分でない可能性を窺わせる結果である。

一方、自己の成長と企業の成長を一体的に捉える社員、つまり絆(エンゲージメント)の高い社員が数多くいる企業ほど、企業の業績が高いとの調査結果もある。

企業が持続的に成長していくためには、個人と企業の絆を深めていくことが重要と言える。

仕事観6段階」にみる働き方改革

エンゲージメントは、社員の仕事観の中でどのように位置づけられるのだろうか。

人間の欲求を6段階の階層で表した「マズローの欲求段階」にヒントを得て、働くことの意味を「仕事観6段階」として示したのが下図である。

 「マズローの欲求」と「仕事観」のピラミッド

 

現在、政府の働き方改革で議論されている事案のうち、同一労働同一賃金や長時間労働規制などは、主に6段階のうち第1~3段階の仕事観(「生活の維持」「健康の維持」「帰属意識」)に関連する取り組みである。労働者が公正な処遇で、ワーク・ライフ・バランスを確保し、いきいきと働き続けるには重要な取り組みであることは間違いないが、大企業を中心にこれらの事項が達成されるにつれて、より上位の階層の仕事観に着目した取り組みに焦点が移行してきている。

先述の能力発揮の場や機会を求めたり、やりがいや達成感を重視する仕事観は、主に第4段階(「貢献実感」。仕事を通じて他者から認められる)と第5段階(「能力発揮」。仕事を通じて自分の持つ能力や可能性を最大限発揮する)に対応する。

さらに最高次の「共感」(最上段)は個人や所属する企業の利害を超えた社会全体の幸福を願う仕事観と捉えることができる。事業を通じて社会課題の解決に寄与することができる企業の理念や方向性に社員が共感できる状態とも言えるかもしれない。

社員が共感できるビジョンを提示できているか」へ続く

人生100年時代、「やりがい」「能力発揮」を重視、仕事観が変化」に戻る



2 Comments