「先送り政府ニッポン」の課題3

「発散」する財政

わが国の財政にとって一番の問題は税収の10倍以上もの債務があることではなく(もちろんそのことも十分に問題ですが。)、税収があまり増えず、今後は減少する可能性が高いのに、支出が大幅に増え、今後も増え続ける可能性が高い、という逆向きのベクトルである点です。額が大きくても収入から支出を差し引いた値が減少方向に向かっているのであれば、まだ借金返済の目途が多少は見えます。ところが、収支差が広がっているので、いつまでたっても改善が見込めないばかりか、ますます悪化しているのです。数学の表現を使えば「収束」の反対、すなわち「発散」のグラフです。これは、すでに日本の財政は仕組みとして破たんしていることを意味しています。現状のままでは国家が持続しないことが明らかです。一年でも早く、ベクトルの向きを変える手立てを講じなくてはなりません。ところが、政府は抜本的な対応を図らず放置し続けています。

繰り返しになりますが、税収に占める国債の割合、歳出に占める国債返済の割合はどちらも増加しており、支出>収入の状態がかわらないかぎり、債務残高を表すグラフは「収束」せず「発散」し、青天井で膨れ上がり続けます。

財政規律と「底の空いたバケツ」

日銀が異次元金融緩和を始めたのは2013年4月です。2015年4月あたりまでをめどに、しかし、できるだけ早期に2%の物価目標を実現するとし、長期国債の保有残高を年間50兆円ペースで増加するよう買い入れ、平均残存期間をそれまでの3年弱から7年程度に延長しました。

ところが、インフレは思うように進まず、2014年10月には長期国債の買い入れペースを年間80兆円に拡大するとともに、平均残存期間も7~10年への延長を行いました。さらに、2015年12月には平均残存期間を7~12年に拡大、2016年1月にはマイナス金利政策の導入を図りましたが、それでも物価は想定通りには上がらず、2016年9月の総括的検証に至ります。そこでは目標未達の原因として、2014 年夏以降の原油価格の下落、消費税率の引き上げ後の需要の弱さ、2015 年夏以降の新興国経済の減速とそれを受けた世界的な金融市場の不安定化を掲げていますが、これらの要因がすべて日本のみの事情であると断言するのは難しいでしょう。しかるに、他の先進諸国の物価上昇率と同じ動きをしているとは言えません。

そして、「量的・質的金融緩和」を導入していなかったら、もっと消費者物価は低下していたはずという、やや苦しい分析を行っています。

そして、引き続き国債の買い入れ(購入額の縮小の可能性はありますが。)とマイナス金利を続けることを表明しています。国債購入は日銀のバランスシートを痛めるわけで、過去3年間の物価変動を見るに、この政策を今後も続けることが本当に正しいことなのかを本当は検証すべきであったと考えます。

日銀が現在実施している「異次元緩和政策」(国債を買い続けること)は、2%の物価上昇率を目標として実施しているため、− 見通しは暗いですが −、もし仮にデフレからインフレに転じてこの目標が達成されたとき、それを続ける理由がなくなりますから、買い入れをストップすることになります。それでも同じペースで国債を発行し続けたとしたら、金利が上昇し、国債返済のための税負担が高まりますから、出口戦略はきわめて重要です。〝異次元〟と呼ぶほど、従来にない規模で資金供給量(マネタリーベース)を増やし、長期国債の平均残存期間を長くしているので、この政策が長引くほど、適正な状態に戻すための期間が長くなり、金利上昇による損失リスクは高まります。

日本の財政問題が深刻なのは、経済規模が縮小する中にあって債務が膨らんでいるためです。この事態に対し、経済規模が拡大し続ければ問題はないという識者もいます。政府の経済成長重視のスタンスの背景には、「経済さえ成長すれば債務問題は解消する」との観念があります。

達成不可能な目標設定

では日本が財政破綻を避けるには、どの程度の経済規模の拡大が必要なのでしょうか。

過去5年間における国及び地方の債務残高の伸び率は年率平均約4%ですから、この傾向が続くとすると、財政悪化を止めるには最低でも名目GDPの伸び率を4%程度にまであげなくてはなりません。これはバブル崩壊前のバブル絶頂期の水準であり、非現実的であることは明らかです。

仮にこの水準で成長できてようやくGDPに対する債務負担率の増加が止まります。しかし、改善を図るにはそれでも不十分です。近年の公的債務残高の伸びが続くと仮定すると、例えば2020年に、先進諸国の平均債務負担比率並み(GDPに対する公的債務のOECD諸国の平均値は88.8)にするには2020年の名目GDPを約1,400兆円にあげなくてはなりません。この額は現在の3倍近くであり、事実上不可能です。しかも、目標達成時期を後送りにすればするほど、その分GDPの目標値も高くなります。