法人の誕生

人工的な「人」

手段の目的化によって生み出された雇用者のカウンターパートは“使用者”ですが、これらをひっくるめた概念、すなわち“法人”も近代の所産の1つです。法人は、人間、つまり「自然人」が効率的に生産活動、経済活動を行う手段として生み出された人工的な「人」です。その役割と機能が明確な点で、貨幣の循環になじみやすい存在と言えます。

雇用者や法人の成立経緯を振り返ってみます。まず、産業革命の成立要因に欠かせないのは、工場で働くための豊富な労働力の存在です。イギリスでは、大地主が牧羊地を増やすため土地の囲い込み(第2次囲い込み運動)を行い、大量の労働力があぶれました。この時代に人口は急激に増加しており、その多くが工場で働く労働力となりましたが、農業生産の効率性が高まり、食料の供給量が増大したことがその背景にあります。

個人事業主の貨幣循環の過程で得た貨幣の一部は自らの生活を成り立たせるために使用されていました。しかし、次第に、簡素化された循環が誕生することになります。生活に必要な財の購入を行わないようになってきたのです。法人の誕生です。

 労働者の商品化

「法人」は、「売る」(売って利益を得る)ことのみを目的に財を購入する主体(したがって、自己消費しない)です。上図に見るように、「貨幣を得る」行為のために「商品を得る」ことと「労働力を得る」ことが必要になり、都合2回の貨幣のやり取りが生じます。

「法人」の仕組みは生産の効率性を高めますが、一般に、法人は組織の規模が大きいほど生産効率は高まります。そのため、規模は縮小するよりも拡大する方向に変化してきました。

法人はお金を借り入れ、従業員を雇い、設備投資を行い、生産活動を行うシステムであるため、法人が誕生することで「雇用者」という概念はより厳密なものになっていきました。従業員は法人に雇用され、財を生み、賃金を得る役割を担います。

生産組織の規模が大きくなるにつれ、使用者と雇用者の役割が明確になりました。労働者の商品化が進んだのが近代化の歴史と言えます。