2018年7月3日
地域コミュニティが弱体化するのは理由がある
行政の存在感の高まり
経済活動が活発化する前の前近代と、近代以降とでは行政の役割は少し異なっています。
「行政」は市場経済に先んじて、前近代に誕生した社会システムでしたが、市場経済の発達により、市場の失敗を是正する役割が、より重視されるようになったのです。
中世ヨーロッパでは、教会に属することで、生命の安全と一定レベルの生活の保障が約束されていました。しかし、教会の弱体化と人口の流動が地域コミュニティ、教会の双方の安全ネットとしての機能低下をもたらし、貧困が本人に起因するものというより、社会が生み出しているとの認識が生まれるなかで、福祉国家概念が醸成されていきました。
行政の肥大化
ただし、狭義の意味での「福祉」にとどまらず行政機能全般の肥大化が生じています。環境問題、犯罪などは市場の失敗の一部とされ、それを是正するものとして、貧困問題ばかりでなく、環境政策、教育政策など国民生活の質を高める各種の取り組みが重視されるようになりました。
近代国家成立当初は、運営ルールとしての法律の整備が必要でしたから、立法府が大きな役割を担いましたが、一通り制度が整うと、今度は行政府の役割が重要になり、今日に至っています。
地域コミュニティや教会などの村落共同体のような存在が保持していた社会保障的機能は(さらに言えば、教育、治安、環境保全なども)国家が代替し、家族やコミュニティの役割は薄れていきました。個人と社会の間にある、このような「中間組織」の機能不全と福祉国家化や行政機能の肥大化は互いに影響を及ぼしつつ進行しています。弱体化する地域コミュニティを復活させようとしても困難なのはそのためです。