今こそ成長幻想を捨てて発想の転換を

人口減少局面で規模の拡大をめざすのは現実的でない

政府はGDPのさらなる拡大を志向していますが、労働力人口の減少に伴い経済規模それ自体は縮小を余儀なくされるため、今後20~30年の間、GDPを高めるどころか、維持するのもそうたやすいことではないのが本当のところです。現実離れした生産性上昇の仮定を盛り込み、経済成長の上向きの予測を示せても、あまり意味はありません。今後少なくとも30年間は続く高齢化率の上昇により社会保障負担は間違いなく増加します。所得の高い高齢者の医療や介護の利用負担を増やすような小手先の制度変更程度では制度の抜本的な見直しの時期を多少後ろにずらす位の効果しかなく、すでに持ちこたえきれない状態に至っています。財政を破たんさせずに日本社会を維持するには、今後長期にわたり綱渡りの財政運営を行わなければならないのは明らかです。

手遅れにならないようにするには、「成長」への幻想を捨て、国づくりのあり方を根本から見直す必要があります。そのためには、非効率な仕組みや組織の思い切ったリストラも必要です。

組織のダウンサイジング

たとえば、地方交付税交付金や国の政策経費の削減は困難ですが、不可能ではありません。依然として右肩上がりの時代の発想が残っており、使えるお金の中から優先順位をつけて割り振るのではなく、必要と思われる費用を積み上げているためです。まずはじめに着手すべきは組織の縮小です。橋本内閣で実施した省庁再編後も、例えば厚生労働省内に、旧厚生省の部署、旧労働省の部署が似た施策を所管し、別々に事業を実施しているなど、統合効果はさほど見られないように思います。経産省と厚労省との間で類似の事業を実施しているといった省庁を超えた重複もあります。

一般に、国や自治体などの公共セクターには採算性等の「マイナス評価の基準」(リストラの理屈)が存在しないため組織の縮小を行いにくく、結果として組織を維持・肥大化させる力が働き、結果として事業の数と費用が膨らみます。そこで、行政機構と制度(社会ルール)の簡素化、機能主義的な政策立案方法の見直しを図る必要があります。

事業の無駄を配し、より効果的な取り組みに予算を振り当てるため、事務事業評価が、1990年代中頃から改革自治体を中心に進められ、2001年1月の中央官庁機構改革によって総務省に行政評価局が再編強化されて誕生し、2010年度予算編成時には行政刷新会議で事業仕分けが行われるなど、無為無策であったわけでは必ずしもありません。しかし、十分に機能しているとは言えないのはなぜでしょうか。

合理的につくられた組織は効率的でない

事務事業評価には、あらゆる事業には何らかの目的がある、との暗黙の前提があります。それ自体は何ら問題はないのですが、これに加えて、目的に対応する事業があるということで目的と手段の一対一の対応関係を想定しています。逆に言えば、複数の異なる目的を達成する事業は想定されていないのです。それぞれの部署に特定の所掌すべき事務の内容があり、それらは重複はしていません。異なる部署でミッションが被っていたら責任の所在が不明確になるとともに、事業を推進する際に指揮命令系統が錯綜し、混乱をきたすでしょう。組織も事業も、いわゆるミーシー(MECE、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、漏れなくダブりのない状態を指す。)となっているのです。それは合理的ではありますが、効率的ではない場合があります。一つの事業が二つの目的を達せられるのであれば、一つしか目的を達せられない事業よりもよいのではないでしょうか。まさに「一石二鳥」です。

事業を組み立て、評価する際に、より多くの目的を達成できることの視点を入れるのです。組織についても、複数目的を有する組織に再編していき、複数の価値をどれだけ実現し得るかどうかで組織を評価、改廃を行うことにします。異省庁の所管業務の目的を満たす事業を優先的に実施します。おそらく国が傾く前に、とにかくできるところからスリム化に着手することになるでしょう。

また、上記の発想は国と地方のいずれにも適用できますが、2014年5月に「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会は、2040年に全国1800市区町村の半分の存続が難しくなる、との予測を発表したように、地方自治体においては、とくに組織の抜本的な改革が求められる段階に近づいていると考えます。