「社員」と「企業」の関係は今後どう変わる?

「人手不足」から「人手余り」へのシフト
AI(人工知能)などのデジタル技術の深化はめざましいものがあります。ホワイトカラーの職場も例外ではありません。日本の労働力人口は減少を続けますが、デジタル技術の進化の速度は指数級数的のため、どこかの時点で「人手不足」から「人手余り」に移行することは明らかです。生産性が究極まで高まった先には、より少ない就業者で、需要を満たす財を生産することができるようになります。つまり、そう遠くない未来に不要な労働者が大量に出てくるはずです。「仕事が消える時代」の到来です。
仕事が消える前の過渡期の企業のカタチとは

どの部分が自動化されるのかは、一概に言えません。定型的な作業や、感情や感性の関与が低い仕事、高度な思考を要しない業務から消滅しているようにも見えますが、感情型ロボットや思考を助けるITが出てきており聖域はありません。最終的には人を介さずあらゆる生産・サービス活動が行われる可能性があります。一方、新たに確実に生まれるのは、自動化の仕組みを構築・維持・改善する仕事と、この仕組みの利用を支援、教育、管理する仕事です。ただし、これらの仕事を行うために必要な人の数は、消える仕事に従事していた人の数に比べ、はるかに少ないです。
定型的な仕事と知的労働がAIやロボットたちに移管されると、完全な定型業務ではないですが、かといって高度な専門性は必ずしも要求されない仕事は人間に残る可能性があります。
厳格な社員選別の始まり
この場合、企業の立場で見ればすべての社員を正規社員として雇用してしまうと、技術や環境の変化に対応しにくくなるため、できるだけ外部化しようとする可能性が高まります。逆に言えば、多くの企業で役立つポータブルスキルと、ある程度の専門性を持つ人材を教育して、さまざまな企業に有期雇用者として送り込むことのできるサービスへのニーズが強まります。現在の派遣会社と社会人向け大学を融合させるイメージの企業です。
多くの企業はごく少数の執行役員と管理職だけで構成され、人事・総務・経理などの管理部門から、商品やサービスを開発し、提供する事業部門まで、大半の人材をアウトソーシングします。
そうなれば新卒一括採用という日本特有の慣行は弱まり、学びと就労を行き来する北欧諸国に見られるような、よりフレキシブルなキャリアラダーになります。一方で、企業と社員との関係は今よりもドライになり、一定の時間と労力、そして知恵を提供することで、これに見合う対価を給与として得るだけの関係になります。
これにより、社員にとっての働くことの意義や価値は大きく変質するに違いありません。
新たな人材供給サービスの誕生
社内に社員をプールし続けることは、需要の変動への即応の面でも、技術革新への対応の面でも、経営者の立場からすればリスクとなります。社員を固定化し、社内で教育投資を続けるのは避けたいと考えるでしょう。そこで、もし、必要なスキルや能力を持つ人材を必要な期間だけ確保できるような人材サービスが用意されるなら、会社と個人のビジョンを共有する少数の人材を正社員(今でいうところの幹部社員)にして、それ以外は、外部から派遣社員などの非正規社員の形で確保する選択を行う可能性は十分にあります。
このような人材サービス会社は、多様な仕事を経験したり、教育訓練を受ける場になると思われます。大学を卒業したら、まず人材サービス会社に派遣人材として勤め、別の会社で非正規社員として勤務を続けながら経験を積んだ後、転職して正社員として勤務する、あるいは自ら会社を興す、といった2段階のキャリアステージを持つ労働者が一般的になるかもしれません。学卒→派遣会社→転職(正規雇用として就職)or起業という流れです。
米国で普及している「PEO(Professional Employer Organization。雇用代行業)」は人材をメーカーとPEOが共同開発し、PEOが賃金や福利厚生などの労務管理をすべて請け負うという仕組みであり、メーカーから契約を解除され、別のメーカーに派遣されても、福利厚生、退職金、雇用保険がそのまま維持されます。今申し上げた人材サービス会社の原型とも言える例です。
戦力も外部から調達する時代。キャリアビジョンが社内で完結する人は一握りの正社員。そんな時代が到来するかもしれません。