「先送り政府ニッポン」の課題2
政府はただ手をこまねいているだけではない
財政状況は日増しに悪化していますが、もちろん政府は傍観しているわけではなく、さまざまな検討を行い、制度改良を進めています。その重要事項の一つが「医療や介護にかかる負担と給付の見直し」です。たとえば、2015年8月からは、一定以上の所得がある高齢者が、介護保険サービスを利用したときの自己負担割合を1割から2割に引き上げました。また、2016年11月25日の社会保障審議会介護保険部会では、高所得の高齢者に対して、介護サービス利用時の自己負担を現在の2割から3割に引き上げるなどの介護保険制度の見直しを提案しており、2018年度から実施されています。
さらに、医療保険制度に関しては、70歳以上の高額所得高齢者の医療費の自己負担上限額を引き上げや70歳以上を対象にした高額療養費の一部を段階的に廃止するなどの検討を進めています。
ただし、これらの取組は現行制度の根幹を維持したままでの微細な変更に過ぎない(入りと出の帳尻を合わせるまでには至っていない)ため、仮に制度改善を行えたとしても、社会保障関係費の増加を止めることはできません。現在進めている制度見直しがすべて実施できたとしても、年間5,000億円ペースで増え続けることが見込まれ、公的債務の拡大を止めるほどの効果は期待できないのです。
将来世代の富を前借する現世代の罪
「借金」とは将来の国民の納税によって得られる収入を先取りすることを意味し、「社会保障」の大半が高齢層に支払われていることを考えると、現在の子どもたちやこれから生まれてくる国民が稼ぐであろう所得などから得られる未来の税金を、毎年30兆円規模で、現在の高齢層の収入に移転し続けているような状態となっています。子どもから年寄りへのプレゼントを行い続けていることになります。何とも鷹揚な子どもたちと思いきや、よく考えてみれば、30年後の主たる稼ぎ手や納税者は、現段階では選挙権はありませんし、まだ生まれてもいない人も含まれます。シルバー民主主義の弊害が顕著に表れている例といえます。
これを10年間続ければ300兆円ものお金を世代間で移転させることになります。これは日本国家の一般会計予算の3倍以上の規模です。
ただしこのことは日本特有の問題ではなく、先進諸国に先駆けて少子高齢化の進む国だからこそ、福祉国家としての問題が先鋭化している面が大きいです。福祉国家化が財政の持続性に赤信号を点すのは他国も時間の問題でしょう。われわれ人類が一丸となって、この問題に取り組む必要があるのです。